【パントテン酸の効果効能】多く含む食品・摂取量基準・研究情報について

炭水化物、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラル、食物繊維、ファイトニュートリエント。これらは7大栄養素とよばれ、人の成長や健康維持には欠かせない栄養素です。

その中でもビタミンは身体の生理機能の重要な役割をになっていますが、人は体内で生成することができず食事から摂る必要があります。

パントテン酸という名前からはビタミンとは思えませんが、パントテン酸は別名ビタミンB5ともよばれ、れっきとしたビタミンB群の仲間です。
さらにパントテン酸は体内での反応においてとても重要な役割をになっており、本当に必要不可欠な栄養素です。

今回はそんなパントテン酸について、パントテン酸の役割、どれくらい毎日摂れば良いのかなどについて話していきたいと思います。

パントテン酸とは

パントテン酸とは、ビタミンB群に含まれる物質で、化学名はD-(+)-N-(2,4-ジヒドロキシ-3,3-ジメチルブチル 1)-β-アラニン)です。かつて、ビタミンB5とも呼ばれていました。

パントテン酸は,1933年R.J. Williamsらにより酵母の生育因子群「ビオス」として発見され、その存在が生物界に広くどこにでも存在するということから「広くいたるところに存在する酸」という意味で「pantothenic acid」と命名されました。

パントテン酸は、体内の細胞中では補酵素 A(コエンザイム A、CoA)、アシル CoA、アシルキャリアたんぱく質(ACP)、4─ホスホパンテテインとして存在し、糖質、脂質、たんぱく質の代謝とエネルギー産生に不可欠な酵素を補助する役割など正常な活動を行うために必要不可欠な栄養素です。

パントテン酸の効果効能・体内における作用や役割

そんなパントテン酸の体内でのより細かな作用や役割をまとめてみました。

脂質や糖質の代謝

パントテン酸、特に補酵素Aが重要な役割をになっています。

補酵素Aは体内でアシル基と反応し、アセチルCoA、スクシニルCoA、マロニルCoA、および3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル(HMG-CoA)などのチオエステル誘導体を生じます。
補酵素Aとそのアシル誘導体は、食事性の脂肪、炭水化物、およびタンパク質の分解によってエネルギーを作り出す反応に必要不可欠な存在です。

また、アセチルCoAとスクシニルCoAの形態の補酵素Aはクエン酸回路や、必須脂肪、コレステロール、ステロイドホルモン、ビタミンAとD、および神経伝達物質のアセチルコリンの合成、さらに脂肪酸β酸化経路に関わっています。

合成と代謝

補酵素Aの誘導体はまた、メラトニンというホルモンの合成、およびヘムと呼ばれるヘモグロビン成分にも必要です。また、善玉コレステロールを増やしたり、ホルモンや抗体の産生などにも関与しています。さらに、肝臓での多数の薬剤や毒素の代謝に補酵素Aが必要です。そのため、パントテン酸が不足してしまうと、体内での合成・代謝に大きな影響を与えてしまいます。

ストレス反応

パントテン酸は副腎にてホルモンの合成の補助を行い、ストレスホルモンでありストレスを減少させるコルチゾールの合成に作用し、さらにビタミンCがコルチゾールの分泌を促します。その結果、ストレスを感じても短期間で感情が落ち着くと言われています。

パントテン酸はどういった時、意識して摂取するべきか

パントテン酸は体内で様々な反応のサポートを行っていますが、特にどういった時に意識すべきかをまとめてみました。

ストレスを感じている人

パントテン酸は副腎に作用して、コルチゾールというストレスホルモンの合成に関与しています。
日頃、ストレスを感じやすい、感じているという人はこの合成が多く行われているので、体内のパントテン酸を大量に消費している可能性があります。そのため、より意識的にパントテン酸を摂取してみると良いでしょう。

抗生物質を長期に服用している人

ビタミンB群は腸内細菌により合成されていますが、抗生物質を長い期間飲んでいる人は、腸内の細菌バランスが乱れ、食事からのビタミンB群の吸収や体内で必要なものへ合成する作用が弱まっている可能性があります。
そのため、長期で抗生物質を服用している方は、意識的にパントテン酸を含む、ビタミンB群を摂取すると良いでしょう。

コーヒーやアルコールをよく飲む人

カフェインやアルコールの分解にもパントテン酸が関わっています。
そのため、コーヒーやアルコールをよく飲む人はより多くのパントテン酸を必要としている可能性がありますので、積極的にパントテン酸を摂取しましょう。

パントテン酸の欠乏症(症状/対策)

そんな重要な栄養素であるパントテン酸不足になってしまうとどうなってしまうのでしょうか。そもそも、自然発生的なパントテン酸欠乏症は非常に稀で、重篤な栄養不良の場合にのみ報告されています。

症状

過去、実験的にパントテン酸キナーゼ阻害薬とパントテン酸欠乏の食事を同時投与することで誘発されてきた。この実験の参加者は、頭痛、疲労、不眠、腸の不調、および手足のしびれやひりひり感を訴えたと報告されています。また、別の研究では、パントテン酸を含まない食事のみを与えられた参加者は欠乏症の臨床的兆候を示さなかったが、何人かはだるそうで疲労を訴えたとの報告があります。

参考文献
Hodges RE, Ohlson MA, Bean WB. Pantothenic acid deficiency in man. J Clin Invest. 1958;37(11):1642-1657. 

Fry PC, Fox HM, Tao HG. Metabolic response to a pantothenic acid deficient diet in humans. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 1976;22(4):339-346.

対策

現在の日本では、絶食など極端な食生活を送らない限り、パントテン酸欠乏症にはならないと言われています。もし、そのような食生活を送り、パントテン酸欠乏症になってしまった場合、パントテン酸投与で比較的速やかに症状が回復すると言われています。

パントテン酸の過剰症(症状/対策)

過剰症については、パントテン酸単独での過剰症の報告例はないと言われています。

2週間、過剰のパントテン酸(遊離のパントテン酸として3,664㎎)を摂取した研究でも、健康への悪影響は認められませんでした。しかし、3か月間他の薬品と一緒にパントテン酸カルシウムを大量に投与した実験では、吐き気、食欲不振、腹部の痛みを訴えた被験者がいること、動物実験においてもパントテン酸の過剰投与により、成長障害、下痢、脱毛などの健康障害が起こったことなどが報告されています。

通常の食事では上昇の心配はありませんが、サプリメントなどで過剰摂取が認められる場合には注意が必要です。

パントテン酸の研究情報

体に必要なパントテン酸ですが、現在でも多くの研究が行われていますので、その一部を紹介します。

創傷治癒

D-パントテン酸カルシウムおよび/またはパントテン酸の代謝物であるパントテノールを人工的に傷つけた皮膚線維芽細胞培養物の培地に添加すると細胞増殖や細胞移動が高まり、ガラス容器内での創傷治癒が早くなることが研究結果から報告されています。また、別の研究でもD-パンテノールまたはデクスパンテノールとしても知られるD-パントテン酸カルシウムまたはパントテノールのどちらかを含む軟膏を皮膚に塗ると、動物の皮膚の創傷閉鎖を早め、瘢痕組織の強度が増すことが報告されています。

12人の健康なボランティアを含むプラセボ対照研究で、デクスパンテノールを含む軟膏を皮膚の創傷治癒モデルに1~6日間12時間ごとに塗ったところ、細胞増殖、炎症、および組織修復のマーカーの発現が強化されるという関連があったと報告されています。
タトゥー消去の手術を受けた患者による初期の無作為化対照試験で、1または3gのビタミンCと200 mgまたは900 mgのパントテン酸を21日間毎日併用補給しても、創傷治癒プロセスはあまり向上しなかったことと報告されています。しかし最近の無作為化二重盲検プラセボ対照研究で、デクスパンテノールのトローチを300 mg/日を最長で術後14日間使用したところ、扁桃摘出術を受けた子供の粘膜治癒が早くなったと報告されています。

メカニズムについても詳細は判明しておらず、さらなる研究が進められています。

参考文献
Weimann BI, Hermann D. Studies on wound healing: effects of calcium D-pantothenate on the migration, proliferation and protein synthesis of human dermal fibroblasts in culture. Int J Vitam Nutr Res. 1999;69(2):113-119.

Wiederholt T, Heise R, Skazik C, et al. Calcium pantothenate modulates gene expression in proliferating human dermal fibroblasts. Exp Dermatol. 2009;18(11):969-978. 

Heise R, Skazik C, Marquardt Y, et al. Dexpanthenol modulates gene expression in skin wound healing in vivo. Skin Pharmacol Physiol. 2012;25(5):241-248. 

Vaxman F, Olender S, Lambert A, et al. Effect of pantothenic acid and ascorbic acid supplementation on human skin wound healing process. A double-blind, prospective and randomized trial. Eur Surg Res. 1995;27(3):158-166. 

Vaxman F, Olender S, Lambert A, Nisand G, Grenier JF. Can the wound healing process be improved by vitamin supplementation? Experimental study on humans. Eur Surg Res. 1996;28(4):306-314.

Celebi S, Tepe C, Yelken K, Celik O. Efficacy of dexpanthenol for pediatric post-tonsillectomy pain and wound healing. Ann Otol Rhinol Laryngol. 2013;122(7):464-467.

高コレステロール血症治療

とある研究で、パンテノン酸の誘導体であるパンテチンを薬理学的用量で使用することで、コレステロール低減効果があるかもしれないことが報告されました。

16週間の無作為化二重盲検プラセボ対照研究で、毎日のパンテチン補給(600 mg/日を8週間、その後900 mg/日を8週間)によって、心血管疾患リスクが低~中の120人の脂質パラメータプロフィールが大きく向上しました。試験開始時の調整後で、低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)およびアポリポタンパク質B(apoB)濃度を低下させること、およびトリグリセリド(中性脂肪)と高密度リポタンパク質コレステロールの比率を下げることにおいて、パンテチンはプラセボよりもかなり効果的であったことが報告されています。

しかし、パンテチンは耐容性がよくコレステロール代謝を向上させるのにも有益な可能性があるかもしれないが、パンテチンはビタミンではなく合成した物質であるので、薬剤として利用する際には医師の処方が必要になるので、ビタミンの補充とは気軽さが異なることが課題として存在しています。

参考文献
Coronel F, Tornero F, Torrente J, et al. Treatment of hyperlipemia in diabetic patients on dialysis with a physiological substance. Am J Nephrol. 1991;11(1):32-36. 

Gaddi A, Descovich GC, Noseda G, et al. Controlled evaluation of pantethine, a natural hypolipidemic compound, in patients with different forms of hyperlipoproteinemia. Atherosclerosis. 1984;50(1):73-83. 

Rumberger JA, Napolitano J, Azumano I, Kamiya T, Evans M. Pantethine, a derivative of vitamin B(5) used as a nutritional supplement, favorably alters low-density lipoprotein cholesterol metabolism in low- to moderate-cardiovascular risk North American subjects: a triple-blinded placebo and diet-controlled investigation. Nutr Res. 2011;31(8):608-615.

白髪化からの回復

パントテン酸欠乏のマウスは皮膚刺激や毛が白くなる症状が起きましたが、パントテン酸を投与することで元に戻ったという報告があります。
しかし、人間では、パントテン酸をサプリメントとして摂取したりパントテン酸入りのシャンプーを使用したりすることが髪の色を保ったり復元したりすることができるというエビデンスはありません。

リューマチ性関節炎治療

とある研究でパントテン酸がリューマチ性関節炎(RA)の症状を軽減することに役に立つ可能性が報告されました。

2,000 mg/日のパントテン酸カルシウムの投与により、早朝硬直と苦痛を含むリウマチ性関節炎症状の改善が報告されました。この研究で、リウマチ性関節炎を発症した人々の血液中パントテン酸濃度レベルが健康な人々より低いことが判明し、最もパントテン酸濃度が低い患者の病状が最も重篤であることに関連していることが報告されました。

より詳細なメカニズムを解明するためにもさらなる研究が進められています。

参考文献
Calcium pantothenate in arthritic conditions. A report from the General Practitioner Research Group.Practitioner
. 1980 Feb;224(1340):208-11.

パントテン酸を摂取に気をつけるべき人(薬の飲み合わせ等)

一部、パントテン酸は薬との飲み合わせに注意が必要なケースがあるので紹介します。

抗生物質を長期に服用している人

ビタミンB群は腸内細菌により合成されていますが、抗生物質を長い期間飲んでいる人は、腸内の細菌バランスが乱れ、食事からのビタミンB群の吸収や体内で必要なものへ合成する作用が弱まっている可能性があります。

そのため、長期で抗生物質を服用している方は、意識的にパントテン酸を含む、ビタミンB群を摂取すると良いでしょう。

薬物とパントテン酸の飲み合わせで問題となりそうなものはあまり報告されていませんが、気になる方はかかりつけの医療機関へお問い合わせください。

パントテン酸の1日摂取量の目安(年齢別)

パントテン酸の効果について説明しましたが、1日どれくらいのパントテン酸を摂ればいいのでしょうか。厚生労働省が発表しています「日本人の食事摂取基準」というものを見ていきましょう。

パントテン酸の食事摂取基準(mg/日)

男性女性※
年齢等目安量目安量
1~2(歳)33
3~5(歳)44
6~7(歳)55
8~9(歳)55
10~11(歳)66
12~14(歳)76
15~17(歳)75
18~29(歳) 54
30~49(歳) 54
50~69(歳) 55
70~(歳)55

参照:厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2020年版)

パントテン酸を多く含む食品上位20位

パントテン酸の効果や1日の必要量がわかったところで、具体的にどのような食品にパントテン酸が多く含まれるかを紹介します。

順位食品名成分量(mg/100g)
1鶏肉 肝臓 生10.1
2乾しいたけ7.93
3豚肉 スモークレバー7.28
4豚肉 肝臓 生7.19
5牛肉 肝臓 生6.40
6チーズホエーパウダー5.95
7干しやつめ5.76
8パン酵母 乾燥5.73
9からすみ5.17
10雀肉 肉 骨・皮つき 生4.56
11鳩肉 肉 皮なし 生4.48
12米ぬか4.43
13鶏肉 心臓 生4.41
14がちょう フォアグラ ゆで4.38
15豚肉 じん臓 生4.36
16卵黄 生4.33
17挽きわり納豆4.28
18脱脂粉乳4.17
19玉露 茶4.10
20牛肉 じん臓 生4.08

参考:日本食品標準成分表2015年版(七訂)

パントテン酸を多く含む野菜上位10位

次に野菜類に特化し紹介します。

順位食品名成分量(mg/100g)
1とうがらし 果実 乾3.61
2干し若芽 乾3.10
3干しわらび 乾2.70
4干しずいき 乾2.00
5モロヘイヤ 茎葉 生1.83
6かんぴょう 乾1.75
7菊のり1.50
8らっかせい 未熟豆 生1.40
9カリフラワー 花序 生1.30
10切干しだいこん 乾1.24

参考:日本食品標準成分表2015年版(七訂)

パントテン酸を多く含む魚類/肉類上位10位

魚類/肉類に特化し紹介します。

順位食品名成分量(mg/100g)
1鶏肉 肝臓 生10.1
2豚肉 スモークレバー7.28
3豚肉 肝臓 生7.19
4牛肉 肝臓 生6.40
5からすみ5.17
6雀肉 肉 骨・皮つき 生4.56
7鳩肉 肉 皮なし 生4.48
8鶏肉 心臓 生4.41
9がちょう フォアグラ ゆで4.38
10豚肉 じん臓 生4.36

参考:日本食品標準成分表2015年版(七訂)

パントテン酸を多く含む穀類上位10位

最後に穀類に特化し紹介します。

順位食品名成分量(mg/100g)
1米ぬか4.43
2そば粉 表層粉2.60
3あわ 精白粒1.83
4アマランサス 玄穀1.69
5そば粉 全層粉1.56
6そば粉 中層粉1.54
7そば米1.53
8ひえ 精白粒1.50
9もろこし 玄穀1.42
10玄米1.37

参考:日本食品標準成分表2015年版(七訂)

パントテン酸はサプリメントで意識的に摂取すべきか

これまでパントテン酸の必要量や、含まれている食材について紹介してきましたが、そもそも私たちはきちんと必要なパントテン酸を毎日摂ることができているのでしょうか。

厚生労働省が発表している「平成30年国民健康・栄養調査報告」によると、パントテン酸の平均摂取量は5.57 mgであり、目安量に届いています。

欠乏症の紹介時にもお伝えしましたが、現在の日本では、絶食など極端な食生活を送らない限り、パントテン酸欠乏症にはならないと言われています。

そのため、パントテン酸に特化したサプリメントを意識的に釣る必要はないかと思います。マルチビタミンなど他のビタミンと一緒に摂取することはあるかと思いますが、その際でもわざわざパントテン酸が含まれていないものを選ぶ必要はありません。

パントテン酸と合わせて摂取すると効果的な栄養素

パントテン酸はその名の由来の通り、多くの様々な食材から摂取することが可能です。そのため特別この食材を特定の調理方法で摂取すると良いということはございません。
現在の日本では、一般的な食事を続けることで目安量を摂取することが可能ですので、規則正しい食生活を続けることがパントテン酸を効果的に摂取するポイントです。

また、ビタミンB群とよばれるビタミンには「互いに協力しながら働く」と言う性質があります。パントテン酸は、ビタミンB群の1つであるため、一緒に摂取したほうがより良い働きが期待できると言われています。特にパントテン酸は補酵素として、体内の様々な反応の手助けをしているので、他の栄養素と同時に摂取することで、その栄養素の働きを手助けしてくれるでしょう。

青汁でパントテン酸は効率的に摂取可能か

栄養素を摂取する際にサプリメントの代わりに青汁を選択する人もいるかと思います。
その選択は間違っていませんし、手軽に摂取できる、特定の栄養素を摂取したいときなどは効果的と言われています。

しかし、パントテン酸に関しては、普段の食事から必要量摂取が可能であり、特別青汁に頼る必要はないと言えるでしょう。

絶食時などパントテン酸が不足する時は合わせて他のビタミンなども不足してしまっているケースが多く、その場合は多くの栄養素が網羅されているマルチビタミンなどのサプリメントやビタミン類などが多く配合された青汁などを選択するといいでしょう。

自分の状況に合わせて効果的な選択をしていきましょう。

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