糖質の過剰摂取が招く病気と「空腹」というクスリの効果

ヘルシーと思われている日本の食習慣ですが、現代は日本食以外の選択肢がたくさんあり、1日3食お腹いっぱい食べることができる幸せな時代です。けれどそれが実は食べすぎを招き、糖質の過剰摂取に繋がっています。脂質の摂取を気にする人は多いですが、私たちの食事は意識しないでいると糖質を過剰に摂取することになる事実は意外に知られていません。

近年話題になったオートファジーが、糖質の過剰摂取の問題を解決する可能性を秘めています。空腹とオートファジーを利用した健康法について書かれた『「空腹」こそ最強のクスリ』(青木厚著)の中から、糖質の過剰摂取の害と、空腹時間の効果に絞って紹介します。

私はこの本を読んで、現代の日本の食習慣は普通の状態でも糖質を過剰摂取しがちであることを知りました。食後の異常な眠気の原因や、血糖値の急激な上昇と体に与える影響、病気のリスクについてわかりやすく解説されています。正しい知識を持つことで、ダイエットに対する長期的なモチベーション維持にも役立つと思いました。

食後、だるさや眠気がひどいという経験はありませんか?

昼食を食べた後、ひどい体のだるさや眠気に襲われて困ることはありませんか?身に覚えのある方は、もしかすると糖質を摂りすぎているのかもしれません。甘いものはあまり食べないという方でも、糖質過多になっている可能性は十分にあります。その理由はまず第一に、糖質は炭水化物の一部だからです。炭水化物といえば白米やパンです。日本人の主食は白米ですが、白米を食べるということは糖質を摂るということです。私たちは毎食、白米かパン、うどんなどの麺類を食べることが多く、そのような食習慣の場合、どの程度の糖質を摂取することになるのでしょう。

まず成人が1日に必要とする糖質の量は170gといわれています。1食でお茶碗1杯分の白米(150g)を食べるとすると、50gの糖質が摂取することになります。1本3gのスティックシュガーに換算すると、お茶碗1杯の白米に含まれる糖質は、約17本になります。丼ものやカレーライスもランチでよく食べるメニューだと思いますが、お茶碗よりも白米が多いので、1食分の糖質は1.5〜2倍になります。1杯のかけうどん約 250gに含まれる糖質は約60gになり、スティックシュガーに換算すると約20本分にもなります。表にして下にまとめました。

1杯分の重さ糖質の量3gのスティックシュガーに換算
お茶碗1杯の白米150g50g17本
丼、カレーライス1杯分225〜300g75〜100g25〜33本
かけうどん1杯250g60g20本

お昼ご飯を手っ取り早く済ませるために、炭水化物が多い食事をしている人は、糖質を過剰摂取している可能性があるので気をつけましょう。
次は糖質の摂取量と、だるさや眠気との深い関わりについて解説します。

糖質を摂りすぎるとどうなるか

食事をすると血糖値が上がります。食事をして血糖値が上がると、血糖値を下げるためにすい臓からインスリンというホルモンが分泌されます。ここでインスリンの働きについて、詳しく説明します。

インスリンの働き

食事などで血糖値が上がると、すい臓からインスリンが分泌されます。細胞の表面には、インスリン受容体があり、受容体にインスリンが結合すると、血液中のブドウ糖(血糖)が細胞内に取り込まれ、エネルギーとして利用されます。
使いきれなかったブドウ糖は、インスリンの作用によりグリコーゲンや中性脂肪に合成されます。
*1

糖質を摂りすぎると脂肪として体内に蓄えられる

インスリンの働きで血液中のブドウ糖は細胞に取り込まれ、エネルギー源として利用されます。しかし使いきれないほどの糖質を摂りすぎてしまった場合、血液中の余ったブドウ糖はインスリンによって中性脂肪に変えられ、内臓や皮下に脂肪として蓄えられます。
炭水化物や糖質の多い食品を過剰に摂取すると、体内に脂肪が蓄積されていき、肥満になります。肝臓に脂肪が溜まった状態を脂肪肝といい、インスリンが効きにくくなるために血糖値が下がりにくくなり、糖尿病になるリスクが高くなります。

インスリンの過剰分泌で眠気やだるさを感じる

普段から糖質過剰な食生活を送っていると、血糖値が上がりやすくなりインスリンが過剰に分泌されるようになります。その結果、血糖値が一気に下がるために眠気やだるさ、やる気がなくなるという症状がみられることがあります。

食べすぎはインスリンの効きを悪くする

食べすぎで血糖値が高い状態が続くと、徐々にインスリンが効かなくなります。そのためすい臓はインスリンをどんどん作って分泌するようになり、そのうちに疲れてインスリンが作れなくなります。このような状態になってしまったのが2型糖尿病です。*2

糖質の過剰摂取が招く病気

糖質の摂りすぎが原因の病気は糖尿病がよく知られています。しかしその他にも、さまざまな病気を招くことがわかってきました。血液中の過剰なブドウ糖は、インスリンの働きで中性脂肪に変えられて、脂肪として体内に蓄積されることはすでに説明しました。
脂肪がどんどん蓄積されると肥満になり、生活習慣病のリスクが高まります。生活習慣病とは生活習慣が深く関与した病気のことをいい、脳卒中、がん、心臓病が該当します。*3

また最近では糖質過剰症候群という新しい概念と提唱する医師も現れました。糖尿病、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、がん、脂質異常症をはじめ、アルツハイマー病、うつ病、骨粗しょう症、片頭痛、子宮内膜症、ニキビなど非常に多くの疾患が糖質の過剰摂取と関係があることを指摘しています。*4

飽食の時代で砂糖を使った食品であふれ、ほぼ毎日甘いものを食べたり飲んだりする人は多いと思います。日本の食習慣は特に白米やうどんなどの炭水化物(糖質)中心であるため、気をつけていなければ簡単に糖質の過剰摂取に陥ります。
さらに糖質には強い依存性・中毒性があることも指摘されていて、このことが糖質の過剰摂取が改善されない原因にもなっています。

糖質の多い食べ物が欲しくなる理由

甘いものを食べることをやめられない人は多いといいますが、それは糖質には中毒性があるからです。人間を含め生物は快楽を得ることが行動の動機になります。快楽は脳内に分泌される脳内物質により生じます。脳内物質にはさまざまなものがありますが、その中にドーパミンβ-エンドルフィンがあります。これらは脳内麻薬脳内報酬系と呼ばれます。

脳内のドーパミンが分泌される部位に電極を埋め込み、レバーを押すと脳に電気刺激が流れルような実験をラットを使って行ったところ、ラットは盛んにレバーを押して電気刺激を求めました。*5  この結果から電気刺激でドーパミンが分泌し快楽を得ることが動機になり、レバーを押す行動を繰り返すことがわかります。

糖質はドーパミンやβ-エンドルフィンを増やすことが知られています。甘いものを食べると幸福感が得られるのはこのためです。糖質への依存は、コカインよりも強いという実験結果もあり、糖質依存を抜け出すのは簡単ではありません。ダイエット法の一つで糖質制限が注目されることがありましたが、無理な糖質制限により糖質依存に発展するケースもあるようです。糖質は麻薬と同等またはそれ以上の強い中毒性を持つので、たかが甘いものと油断しないことが大事です。

糖質制限で糖質の摂取量を減らす

近年ダイエット法、健康法の一つとして話題を集めている糖質制限ですが、少し説明をしておきます。糖質制限とはどんなものか、メリットとデメリットについて解説します。

糖質制限とは、白米・パン・イモ類・果物などに含まれる糖質の摂取量を1日130g以下に抑えるというものです。目的は炭化物の摂取を抑えることで、エネルギー不足を作り出し、体脂肪をエネルギーに変えることです。体内に蓄積した脂肪をエネルギー源として使うため、体脂肪が減り痩せることができるという考え方です。

糖質制限のメリットは血糖値の改善と、体脂肪の減少により体重が減ることです。一方糖質制限にはデメリットもあります。
糖質制限は1日に摂取する糖質の量を130g以下に抑えます。成人は1日170gの糖質摂取が必要といわれているので、体が足りない分を脂肪やタンパク質を糖に作り替えてエネルギーにしようとします。その結果筋肉量が減ってしまいます。
また糖質制限は、糖質を摂らない代わりに、1日の摂取カロリーをタンパク質や脂質から摂ることになります。食べる量によっては、1日の必要量以上の脂質を摂取して食べすぎてしまうことがあります。脂質を食べすぎると悪玉コレステロール値が上がり、脳梗塞や心筋梗塞などが起こるリスクが高まります。

「空腹時間」を作ることで糖質の摂取量を減らす

糖質制限は糖質の摂りすぎを防ぐことはできますが、食事のバランスを考えなければならず、間違えたバランスの食事を摂り続けることによって、健康を害する危険性があります。

その点空腹時間を作ることは至ってシンプルであり、空腹時間を過ぎたら通常の生活に戻ればよいだけです。何も食べない時間は、糖質だけではなく脂質の摂取もありません。糖質制限をする場合には、どの食品が糖質であるかを見極めなければなりませんが、空腹時間を作る場合には、そのような判断をすることは不要なので、簡単です。

空腹時間にはものを食べることをがまんしなければなりませんが、空腹時間が終わると何を食べてもよいのです。1食抜くことになるので、1食分の厳しいカロリー制限はありません。
さらに最近の研究では、オートファジーにはインスリンの分泌を促す作用があることがわかってきました。そのため2型糖尿病を改善させる可能性があるともいわれています。

糖質を制限する以上の効果がある「空腹」

空腹時間を作ることには、糖質を制限するだけではなく、それ以上の効果があるといわれています。最後の食事から10時間が経過すると、エネルギー不足になり、体内に蓄えている脂肪がエネルギーとして使われ始めます。

最後の食事からさらに16時間が経つと、オートファジーが機能し始めます。オートファジーとは、体が飢餓状態に陥ったときに本来は体外に排出される古いタンパク質や壊れたタンパク質を再利用して新しいタンパク質を作り出す機能です。この働きにより細胞内にあるミトコンドリアなどの小器官が新しく作り替えられ、細胞が生まれ変わることができます。

歳を重ねると、次第に体の機能が衰えて老廃物が溜まり、臓器が機能しなくなってきますが、オートファジーによって細胞レベルから機能が活発化し、病気になりにくく若々しい体になります。オートファジーは近年、空腹の状態で機能し始めることが発見されて注目を集め、研究が盛んに行われています。

「空腹」の効果に期待

糖質の過剰摂取があらゆる体の不調や病気の原因になるという考え方がされ始める一方で、気をつけていなければ、簡単に糖質過剰に陥ってしまう時代です。現に糖尿病患者の割合は、最近の20年間で増加傾向にあります。*6

ノーベル賞で世界から注目と希望を集めている、オートファジーを利用した「空腹」の健康法は、糖質過剰摂取とそれに起因する病気の予防に最強のクスリといえそうです。

この記事は、下記の著書を元に執筆しています。空腹の作り方や、老化を遅らせ病気を防ぐ方法の詳細についても、下記著書を参照ください。

『「空腹」こそ最強のクスリ』青木厚著 アスコム (2019/1/26)

(参考文献)
*1: インスリン(e-ヘルスネット)厚生労働省
*2: 糖尿病(糖尿病情報センター)国立国際医療研究センター
*3: 生活習慣病とは?(e-ヘルスネット)厚生労働省
*4: 糖質過剰症候群(島根県立大学出雲キャンパス)
*5: 糖質と甘味は中毒になる | ドクターからのアドバイス(Daiwa pharmaceutical Co., Ltd)大和薬品株式会社
*6: 糖尿病に関する統計・調査と社会的な取組み(糖尿病情報センター)国立国際医療研究センター

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