【麹の5つの効果】明らかになりつつある麹効果と種類・効率よく摂取できる食品
麹は味噌やしょうゆ、みりん、日本酒、焼酎などの食品の原料として使われており、日本食と麹は切っても切れない関係ともいえます。麹を使った
近年、健康志向の人が増えると同時に、大学や企業が麹菌の研究に力を入れていて、次々と新しい発見をしています。新しく研究でわかった麹の効果を紹介しつつ、麹に対する理解を深め、麹の魅力を知り食生活に取り入れていきましょう。
麹とは?
麹とは米・大豆・麦などを蒸して、表面にコウジカビを繁殖させたものをいいます。日本食に使われる味噌・しょうゆ・みりん、日本酒や焼酎などを作る時には麹が必要です。
日本の食文化を支えるのは麹といっても過言ではありません。現に麹を作るコウジカビは日本固有のカビで、日本を代表する微生物という意味で「国菌」とも呼ばれます。麹を使った独特な日本食は世界でも広く認知され、2013年に「和食;日本人の伝統的な食文化」としてユネスコの無形文化遺産に登録されました。*1
麹菌の毒素と麹の歴史
日本固有のコウジカビは、実はもともと自然界には存在していないカビでした。麹菌のゲノム解析の結果、Aspergillus flavusが日本のコウジカビの祖先であるとわかりました。Aspergillus flavusはアフラトキシンというカビ毒を生産ことで知られており、そのために日本のコウジカビのカビ毒生産性があるかどうかの研究もなされました。結果、日本のコウジカビには、カビ毒は生産しないことがはっきりし、安全性が確認されました。
先祖であるAspergillus flavusにはカビ毒の生産性がありますが、日本で長い年月をかけて麹が使われていくうちに「家畜化」されたということです。例えるならAspergillus flavusがイノシシで、日本のコウジカビがブタという関係性です。
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麹の種類
「国菌」であるニホンコウジカビはアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)という名前で、味噌・しょうゆ・みりん・日本酒・焼酎などに使われます。日本食に使われるコウジカビの種類は他にもあり、ショウユコウジカビ(Aspergillus sojae)は、味噌・しょうゆに使われます。アワモリコウジカビ(Aspergillus awamori)は、泡盛に使われます。カツオブシカビ(Aspergillus glaucus)は鰹節作りに用いられます。
麹の種類で黄麹と呼ばれるのは、オリゼーとショウユカビです。アワモリコウジカビは黒麹と呼ばれます。もう一つ、白麹(Aspergillus Kawachii)というのがあり、主に焼酎につかわれます。これらは胞子の色で分類されています。*3
麹の何が身体に良いのか
麹は日本食になくてはならないものであることはわかりました。では具体的に何が身体に良いのかについて、近年の麹の研究で解明された麹の働きや効果を紹介します。
麹が持つ酵素の力
麹を使った発酵食品の健康効果に注目が集まり、米麹以外の原材料を使った麹を作り、それらが持つ機能性をまとめた研究報告があります。以前は麹が持つ酵素は、体内に取り入れられても消化管の中で働きを失ってしまうと考えられていました。
しかし本研究報告では多穀麹を給餌したマウスの胃内容物を分析した結果、消化管内でも麹の酵素が働いている可能性があることを示しました。*4
高血糖とごぼう麹への期待
麹を穀物ではなく野菜であるごぼうに撒いて育てたごぼう麹を、マウスに給餌して血糖値の変化を測定した研究が行われました。その結果、ごぼう麹を与えたマウスの血中インスリン値はごぼうや対照食を与えたマウスよりも高いことを認めました。血中C-ペプチド*の量もごぼう麹を与えたマウスの方が多いことがわかり、ごぼう麹が高血糖を抑えるために役立てられる可能性があると示唆しました。*4
*C-ペプチド:膵臓からインスリンが分泌されるときに一緒に分泌されるタンパク質です。C-ペプチドはインスリンの分泌能を評価するために利用されます。
しょうが麹による身体の冷えへの働き
麹を使った発酵食品の研究では、しょうが麹には中性でよく働くプロテアーゼ(たんぱく質分解酵素)の存在が確認されました。先述の通り、麹は体内に取り込まれても酵素が働いていると考えられています。
冷えが気になる20代女性5名にしょうが麹の粉末、しょうがの粉末、プラセボとしてセルロースをたんぱく質と一緒に飲んでもらい、皮膚温度を計測しました。結果はしょうが麹が他と比べて皮膚温度に有意な上昇が認められました。これはしょうがの成分であるショウガオールと、たんぱく質分解酵素によりたんぱく質が加水分解した時に得られる食事誘導性熱産生(DIT)の相乗効果であることが示唆されます。食事誘導性熱産生(DIT)とは、食事をした後に身体がポカポカ温まるのを感じることをいいます。これは体内に吸収された栄養素が分解される時に生じる熱で、そのために身体が温かく感じます。*5
腸内善玉菌の生育環境を良好に保つ麹菌の酸性プロテアーゼ
麹菌はたんぱく質を分解するプロテアーゼという酵素を持っていて、酸性・中性・アルカリ性プロテアーゼが存在しています。中でも酸性プロテアーゼは強い酸性の環境を作り出す胃酸の下でも活性を失わず、大腸まで届いていると考えられています。広島大学などの研究で、この酸性プロテアーゼをラットに給餌したところ、腸内の善玉菌の数が増加していることを見つけました。考えられるビフィズス菌増加の機構は、次の通りです。
大腸に到達した酸性プロテアーゼは、未消化で運ばれてきたたんぱく質を分解しアミノ酸にします。大腸内の善玉菌であるビフィズス菌は、他の腸内細菌と比べて生育が悪く、数が少ないために通常の環境では他の細菌にアミノ酸を取られてしまいます。しかし酸性プロテアーゼが大腸に届くことで腸内のアミノ酸の量が増え、その結果ビフィズス菌の生育にも有利な環境が整い数が増えたのではないかと考えられています。*6
和食は健康食と言われる理由は麹のグリコシルセラミド
佐賀大・岩手大などのマウスを使った研究で、麹に含まれるグリコシドセラミドを給餌したマウスに肝臓コレステロールの低下が起きることを見出しました。また培養細胞レベルでは、麹のグリコシドセラミドの分解物にはメタボリックシンドローム改善効果が認められ、麹に含まれるグリコシドセラミドの健康効果に対する期待が高まりました。
日本人は肌がきれいと言われますが、麹に含まれるグリコシルセラミドが肌の保湿を高める効果があることも明らかになり、美容分野でも麹を使った発酵食品への関心が高まっています。
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麹はどのように摂取するのが良いか
日本食に使われる麹ですが、現代は日本食離れもあり、昔ほど麹を摂取する機会がなくなっているかもしれません。そこで普段の食生活では、どのような食材や発酵食品を取り入れると無理なく麹を摂取できるかについて考え、提案します。
自家製にこだわるなら
麹をできるだけたくさん食べたいなら、麹を調味料として使ったり飲み物として楽しんだりすると良いでしょう。
米麹を買って、自宅で手作りできる簡単なレシピを紹介します。
塩麹
塩麹は調味料として使い道がたくさんあり、万能調味料とも呼ばれます。お肉に塩麹を揉み込んでおけば、数時間で柔らかいお肉に変わります。塩味にほんのり甘く麹の香りがするので、いつもと違うお肉の味になります。
<作り方>
1.材料は乾燥塩麹200g、粗塩60g、水280mlです。
2.麹と塩を手でよく混ぜます。板状になっている麹は手でバラバラにほぐします。
3.2に水を加えて混ぜ、隙間を少し開けて蓋をします。
4.常温(夏は冷暗所)に置き、1日に1回は清潔なスプーンなどでかき混ぜます。
5. 夏なら7日程度、冬なら10日程度置いて、塩の辛さとともに麹の甘みか感じられるようになったら出来上がりです。
6.保存容器に入れ、冷蔵保存で約半年持ちます。
甘酒
甘酒はそのまま飲んだり、豆乳などで割っても美味しいです。お米のつぶつぶが気になる人は、ミキサーにかけると滑らかな舌触りになります。
<作り方>
1.材料はお米0.5合、水300ml(おかゆ用)、米麹100gです。
2.おかゆを炊きます。
3.出来上がったら60℃くらいまで冷まします。
4.60℃になったら、米麹を加えます。
5.温度を60℃に保ったまま、10時間程度置きます。保温できるステンレスのポットや炊飯器を使うと便利です。炊飯器は蓋を開けたままにして、布巾を上からかけておきます。
6.出来上がったら保存容器に入れて、冷蔵保存で1週間以内に飲みきるようにします。
参考
自家製甘酒 Nadia
お手軽に麹を摂取したいなら
手作りは面倒という方は、麹の入った食品を摂取しましょう。麹がブームになったこともあり、麹を使った食品はたくさんあります。いくつかを紹介します。
手作りレシピで紹介した塩麹や甘酒はもちろん自分で作らなくても買うことができます。
甘酒も種類があり、自分好みの味を見つける楽しみがあります。
◆プラス糀 糀甘酒豆乳ブレンド
甘酒に豆乳をブレンドしており、スッキリとした味です。砂糖不使用、アルコール0%です。
◆スパークリング米麹甘酒<ラムネ味>
甘酒なのに炭酸で、ラムネ味。夏にぴったりの飲み物です。
お料理に使える麹もあります。
◆まいにち酵素生活 糀パウダー プレーン
焼き魚にまぶしたり、お菓子やヨーグルト、漬物や飲み物にもさっと一振りするだけのお手軽な麹パウダーもあります。
その他、スーパーに行くと精肉売り場には塩麹に漬け込んだお肉が売っています。青汁に麹が添加されたものや、塩麹クッキーなどもあります。
麹はどれぐらい摂取すべき?摂りすぎは危険?
麹が身体に良いからといって、いくらでも食べれば食べるほど良いのかというと、そういうわけではありません。米麹は米ですので、炭水化物が多く含まれています。日本酒も米麹を使いますが、日本酒は太りやすいと言われるのは、お米が原料だからともいわれていますよね。
米の栄養素のうち炭水化物の割合がもっとも多く、米100g中の約60%存在します。カロリーは米100gで286kcalです。*8
1日に摂取すべきカロリーは、年齢・性別や運動量によっても変わるのですが、成人女性で1400~2000kcalが目安とされ、活動量が多ければ必要なカロリー数も増えていきます。*9
1日3回の食事で摂取するカロリーのことも合わせて、1日に摂るべき麹の量を考えるようにしましょう。
塩麹も同じく、米が原料です。それに加えて塩が入っているので、あまりたくさん摂取すると、塩分の摂りすぎになる可能性があります。厚生労働省では1日に摂っても良い塩の上限は定められていませんが、摂取目標量は1日およそ7gです。*10
塩分を摂りすぎると血圧が上がったり、腎臓に負担をかけてしまうので、気をつけましょう。
麹を摂取するメリット・デメリットはある?
麹ってややこしそうと感じましたか?しかしそれでも麹を摂るメリットはありそうなので、もう一度情報を整理したいと思います。当然デメリットもあるので両者を理解した上で、自分なりの上手な麹との付き合い方ができれば良いと思います。
麹を摂取するメリットは、栄養価が高いことと、麹が持つ酵素の働きによって得られる利益です。麹がもたらしてくれる健康効果はすでに解説した通りで、これからも研究が進むと更なる麹のパワーが明らかになるかもしれません。
これに対して麹を採取するデメリットは、麹を作る手間と時間、過剰摂取に気をつけなければならないことでしょう。
麹のことを知り、麹とうまく付き合えるようになろう
味噌やしょうゆは自分で作らなくても、スーパーで買えるので味噌やしょうゆの原料になっている米麹を見たことがない人もいるかもしれません。スーパーの棚をよく見ると、米麹が売っています。時間はかかるけれど手作りの甘酒や塩麹を作るのも良いかもしれません。
手軽さを求めるなら、甘酒や麹パウダー、麹入りの食品などを買ってみるのも良いですね。甘酒は1日コップ1杯を守り、塩麹は毎日ちょこっとの食習慣にすると良さそうです。
参考文献
*1:バイオサイエンススコープ 国際的に認知される日本の国菌【化学と生物 53(4): 261-264 (2015)】公益社団法人 日本農芸化学会
*2:生物工学基礎講座 バイオよもやま話 麹菌物語(生物工学 第90号)公益社団法人 日本生物工学会
*3:麹のこと 「糀」と「麹」の違いマルコメ株式会社
*4:特集 麹菌を用いた発酵食品の機能性 【生物工学会誌 第97巻 第4号】公益財団法人 日本生物工学会
*5:食事誘発性熱産生 / DIT e-ヘルスネット厚生労働省
*6:特集 次世代プレバイオティクス:麹菌プロテアーゼ【生物工学会誌 第97巻 第4号】公益財団法人日本生物工学会
*7:特集 麹に含まれるグリコシルセラミドの健康効果【生物工学会誌 第97巻 第4号】公益財団法人 日本生物工学会
*8:麹 食品成分データベース 文部科学省
*9:1日に必要なエネルギー量と採取の目安 実践食育ナビ 農林水産省
*10:日本人の食事摂取基準(2020年版)ナトリウム 厚生労働省