【乳酸菌の選び方】乳酸菌の種類・特徴・効果・効率よく摂取できる食事
乳酸菌という言葉は日常生活でよく見たり聞いたりすると思いますが、乳酸菌って何?と聞かれるとよくわからない人も多いと思います。今回は乳酸菌について一般向けにこれ以上ないというほど、詳しく解説します。この記事は、読めば家族や友人に乳酸菌が語れるぐらいになることを想定して書きました。
乳酸菌って何?
私たちの身体にはさまざまな細菌が住み着いていて、そのうちのひとつである乳酸菌は、腸内をすみかとしています。しかし「乳酸菌」という菌がいるわけではありません。乳酸菌とは炭水化物や糖を利用して、乳酸などの酸を作り出す細菌の総称です。
乳酸菌が存在する腸には、1000種類以上の細菌が合計で100兆個も棲みついています。*1
人間の身体にとって良い影響を与える細菌を善玉菌、悪い影響を与える細菌を悪玉菌と呼んでいて、善玉菌と悪玉菌の数のバランスが私たちの健康を保つ上では、とても大切になります。
乳酸菌が善玉菌といわれる理由
善玉菌のひとつである乳酸菌は、乳酸などの酸性物質を作り出すので、腸内が酸性に保たれます。酸性の条件下では活動ができない有害菌や病原菌は、増殖することができません。つまり乳酸菌が存在し腸管内を酸性に保つことで、私たちの身体は有害菌や病原菌から守られているといえます。
最近ではそれだけではなく、乳酸菌が私たちの健康に与える効果について、さまざまなことが明らかになっています。そのうちの2例を紹介します。
乳酸菌が持つ健康効果
アトピーを発症した乳児は、発症していない乳児に比べて生後1年以内で乳酸菌(ビフィズス菌)の検出率が有意に低いことが、北欧で行われた調査で明らかになりました。この調査結果は、ビフィズス菌の早期定着がアレルギーの予防につながることを示唆しています。*2
さらにフィンランドのトゥルク大学では、肥満と乳酸菌の関係について研究が行われています。報告によるとBMIが25を超える肥満型の子どもは、標準体型の子どもよりも生後1年目のビフィズス菌の定着率が有意に低いことが確認されています。*3
乳酸菌は前述した通り、酸を作り出す細菌の総称であり、紹介した研究報告にあるビフィズス菌も乳酸菌の一種です。乳酸菌にはビフィズス菌のほか、どんな細菌があるのかについて次に説明します。
なお乳酸菌の詳しい健康効果については、別記事で詳しく紹介します。
乳酸菌の種類
乳酸菌は数百種類が存在し、プロバイオティクスのみならず発酵食品や動物用飼料の発酵および産業的な利用がされるなど、幅広く使われています。プロバイオティクスとは、身体に良い働きをする生きた菌のことをいいます。
形状による分類
乳酸菌は形で分類すると、棒状の形をした「乳酸桿菌(にゅうさんかんきん)」と球状の形をした「乳酸球菌」に分けられます。棒状でY字型をしているビフィズス菌も、乳酸菌の一種です。
属名による分類
次に食品に使われる乳酸菌の中から、形状別に存在する乳酸菌の属名と用途について説明します。
球菌に属するもの
乳酸球菌のうち、食品に使われる球菌は次の3種です。*14
属名 | 用途 |
---|---|
Streptococcus属(ストレプトコッカス属) | ヨーグルトなど |
Pediococcus属(ペディオコッカス属) | チーズ、ヨーグルトなど |
Leuconostoc属(ロイコノストック属) | 漬物、日本酒など |
桿菌に属するもの
乳酸桿菌はLactobacillus属(ラクトバチルス属)だけになりますが、2020年に食品業界に影響を及ぼすニュースがありました。
乳酸菌の分類技術が進み、Lactobacillus属に分類されていた261菌種全てのゲノム解析から、それぞれの菌株の遺伝情報が揃いました。このデータから、Lactobacillus属に分類されていた菌種に、他とは明らかに異なる菌種が含まれていることが判明しました。そのため、2020年にゲノムデータに基づいて乳酸菌の再分類が行われ、25属に分類されました。*4
全ての属名を記載することはしませんが、乳酸菌の中でも一般によく知られている「カゼイ菌」はLactobacillus属でしたが、属名が変更になり「Lacticaseibacillus属(ラクチカゼイバチルス属)」になっています。
なおこの再分類に伴い一部の属名が変更になりましたが、菌株名及び菌株の名称は変わりません。
ビフィズス菌に属するもの
ビフィズス菌はBifidobacterium属(ビフィドバクテリウム属)に分類される菌の総称です。動物もビフィズス菌を持っていますが、人間が持つ菌とは種類が異なります。人間の腸内には約10種類ほどのビフィズス菌が確認されています。
その10種類のビフィズス菌の中でも、乳児と成人とでは腸内に棲みついているビフィズス菌の種類が異なります。
通常は数種類のビフィズス菌を持っていますが、成人間でも人により棲まわせているビフィズス菌の種類は異なるようです。
そのため乳児、成人で異なるビフィズス菌を摂取することが望ましいと考えられており、赤ちゃん用のミルクとヨーグルトでは異なる種類のビフィズス菌が使用されているようです。
成人は自分がもともと持っているビフィズス菌を摂取するのが理想です。ビフィズス菌を摂取したい時には、ヨーグルトやサプリメントなどいくつか試して、自分に合うと感じるものを探すのも良いかもしれません。*5
主な棲息場所 | 主な菌種 |
---|---|
乳児 | B. breve, B. infantis |
乳児、成人 | B. bifidum, B. longum, B. catenulatum, B. Pseudocatenulatum |
成人 | B. adolescentis |
「Bifidobacterium属の主な菌種と主な棲息場所」森永ビフィズス菌研究所HP参照
摂取する乳酸菌の選び方
乳酸菌はさまざまな種類がありますが、乳酸菌の種類によって作用・健康効果は違うのでしょうか。違うとしたら、摂取する目的によって選ぶべき菌種があるのしょうか。
現在ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌の効果が表示されている商品は、特定保健用食品と機能性表示食品があります。それとは別に、商品化はされていませんが乳酸菌に何らかの効果があることを明らかにした研究報告などの文献も発表されています。これらを調査すると、次のような乳酸菌の健康効果が見つかりました。これらの効果をみて、目的に合致した乳酸菌を選ぶようにしましょう。
腸内環境を改善し、お腹の調子を整える
お腹の調子を整える効果のある乳酸菌が入った商品は、非常に多く存在します。L. カゼイ YIT 9029(シロタ株)やビフィズス菌 Bb-12 (Bifidobacterium lactis)など、多種類の乳酸菌が特定保健用食品として販売されています。*6
ビフィズス菌 Bb-12 (Bifidobacterium lactis)を含む商品
健康なひとの免疫機能の維持をサポート
乳酸菌には免疫機能を高める働きがあるという研究報告はありましたが、2020年に機能性表示食品として初の商品が発売されました。
プラズマ乳酸菌(Lactococcus lactis strain Plasma)を使用した、サプリメントと飲料の6商品は日本初です。*7
研究によるとプラズマ乳酸菌は、免疫の司令塔の役割をはたすpDCという免疫細胞の一つを活性化する働きがあることを発見しました。pDCはNK細胞など他の免疫細胞に指令を出し、免疫細胞全体を活性化します。*8
※pDC:プラズマサイトイド(形質細胞様)樹状細胞(plasmacytoid dendric cell)の略称
臨床での研究報告で、健康な男女に乳酸菌 L.ラクティス プラズマ加熱死菌体を1,000億個を含むカプセルとプラセボを一定期間飲ませたところ、乳酸菌 L.ラクティス プラズマ摂取群はプラセボ摂取群よりも摂取期間中に喉の痛みを訴える人数が有意に少ないことがわかりました。*9
プラズマ乳酸菌(Lactococcus lactis strain Plasma)を含む商品
目や鼻の不快感を緩和
乳酸菌ヘルベ(L.helveticus SBT2171)を含むヨーグルトドリンク(機能性表示食品)は、目や鼻の不快感を緩和する効果があります。*10
乳酸菌ヘルベ(L.helveticus SBT2171)を含む商品
内臓脂肪を減らすのを助ける
ガセリ菌SP株(Lactobacillus gasseri SBT2055)やビフィズス菌B-3(B. breve)を使った商品(特定保健用食品)には、内臓を減らすのを助ける効果が確認されています。
ガセリ菌SP株入りのヨーグルトを1日1個、12週間続けて食べることで、内臓脂肪の有意な減少が確認されています。*11
ガセリ菌SP株(Lactobacillus gasseri SBT2055)を含む商品
肌の潤いを維持する
お米から分離されたK-1乳酸菌(Lactobacillus casei)には肌の潤いを維持して、肌状態を向上させる効果が認められています。
肌の乾燥を感じる女子大生に、K-1乳酸菌を100㎎(1000億個)またはプラセボを6週間、冬季に摂取してもらいました。その結果、皮膚の潤いとキメの両方においてK-1乳酸菌の摂取群で有意な改善が見られました。*12
K-1乳酸菌(Lactobacillus casei)を含む商品
血糖の上昇を抑える
カイコにショ糖を摂取させて、ショ糖摂取後の血糖値上昇を抑制する乳酸菌の一種「腸球菌YM0831株」を発見したという報告があります。今後の研究に期待が集まっています。*13
乳酸菌のここが知りたい!
私たちの生活と切っても切れない関係にある乳酸菌ですが、当たり前にありすぎて疑問に思わなかったことや、疑問に思っていたけれどそのままにしていたということは、意外と多いかもしれません。せっかくだから、この機会に考えてみましょう。
種類の違う乳酸菌を混ぜて食べても大丈夫?
自然界には非常に多種類の乳酸菌が存在し、人間の腸内にもいく種類もの乳酸菌が棲みついています。違う乳酸菌を混ぜても性質が変わってしまうことはないので、違う種類の乳酸菌を混ぜて食べても問題はありません。
乳酸菌は手当たり次第に口にしない方がよい?
生きている乳酸菌が生きたまま腸まで届くためには、胃酸や胆汁などの影響が少ない方がよいので、食べるタイミングは大事だといえます。食後にヨーグルトを食べるなどすると、胃酸などの影響が少なくなると言われています。
乳酸菌摂取量の目安・乳酸菌の個数(●億個)は判断材料になる?
乳酸菌入りの商品には、乳酸菌の数が何百億という単位の表記があり、びっくりしてしまいますね。でも腸内には100兆個以上の腸内細菌がいるので、何百億という数字はそれほど大きいわけではないのです。摂取量の目安は、乳酸菌が入った飲料やヨーグルトなどを参考にしてもよいと思います。摂取する乳酸菌の種類や個人差もあると思うので、様子を見ながら量の調節をするとよいと思います。かなりラフな目安としては、数百億個の摂取を毎日行うことです。摂取した乳酸菌は、そのまま腸内には留まらずに時間が経つと体外に排出されてしまうからです。
日常の食生活で上手く乳酸菌を取り入れよう
十分な乳酸菌を摂取するためには、ヨーグルトだけに頼らずいろんな食材から乳酸菌を取り入れるとよいでしょう。加工食品の場合には特に、同じ食品ばかり食べていると、栄養が偏りやすくなるので注意が必要です。
そこでヨーグルト以外に乳酸菌が摂取できる食品をいくつか紹介しますので、日々の食事に取り入れて見てください。
乳酸菌を含む食材
発酵食品には乳酸菌が含まれています。
納豆、味噌、しょうゆ、キムチ、ぬか漬けなどの漬物、日本酒、ワインなどです。これらは少しずつしか食べられないと思いますが、いく種類もの食材を毎日少しずつ摂るとよいでしょう。
腸内の細菌を元気にするプレバイオティクスも有効
乳酸菌そのものを摂取する以外に、乳酸菌の栄養になる食材を摂取することも有効です。プレバイオティクスとは、乳酸菌などのような人間に有用な細菌の栄養になる成分です。
乳酸菌の栄養になる成分とは、水溶性食物繊維です。次に食物繊維の多い食材を紹介しますので、毎日の食事に積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか。
水溶性食物繊維の含有量Top 10
順位 | 食品名 | 成分量100gあたりg |
---|---|---|
1 | いも及びでん粉類/こんにゃく/精粉 | 73.3 |
2 | きのこ類/(きくらげ類)/しろきくらげ/乾燥 | 19.3 |
3 | 野菜類/(らっきょう類)/らっきょう/りん茎、生 | 18.6 |
4 | し好飲料類/青汁/ケール | 12.8 |
5 | つるにんじん、根、生 | 10.7 |
6 | 野菜類/わらび/干しわらび、乾燥 | 10.0 |
7 | 野菜類/(らっきょう類)/エシャレット/りん茎、生 | 9.1 |
7 | 種実類/亜麻仁/煎り | 9.1 |
9 | 野菜類/きく/菊のり | 8.2 |
10 | 豆類/あずき/全粒、乾燥 | 7.7 |
ヨーグルト以外の乳製品も
最後にヨーグルト以外にも、発酵バターやチーズなどの乳製品にも乳酸菌が含まれています。チーズはナチュラルチーズと加熱して作るプロセスチーズがあります。プロセスチーズは加熱時に乳酸菌が死滅していますので、生きた乳酸菌を摂取するにはナチュラルチーズを選びましょう。
なお乳酸菌は死んでいても、腸内の生きている乳酸菌の栄養になるので、プロセスチーズでもよい効果が期待できます。
参考文献
*1:乳児腸内フローラの形成機構(化学と生物 Vol. 56, No. 4, 2018)日本農芸化学会
*2:Allergy development and the intestinal microflora during the first year of life (The Journal of Allergy and Clinical Immunology VOLUME 108, ISSUE 4, P516-520, OCTOBER 01, 2001) ELSEVIER
*3:Early differences in fecal microbiota composition in children may predict overweight (The American Journal of Clinical Nutrition, Volume 87, Issue 3, March 2008, Pages 534–538) OXFORD ACADEMIC
*4:2020年に公開されたLactobacillus 属の再分類 公益財団法人 腸内細菌学会/(旧)日本ビフィズス菌センター
*5:ヒトのビフィズス菌と動物のビフィズス菌 ビフィズス菌研究所 森永乳業
*6:特定保健用食品許可(承認)品目一覧(抜粋)ーⅠ〔おなかの調子を整える特定保健用食品〕 公益団法人 腸内細菌学会/(旧)日本ビフィズス菌センター
*7:日本初!免疫機能で機能性表示食品として届出受理「iMUSE(イミューズ)」ブランド新発売 キリンホールディングス株式会社
*8:1. 乳酸菌 L.ラクティス プラズマによるpDC活性化と抗ウイルス防御機構 キリンホールディングス株式会社
*9:Effects of heat-killed Lactococcus lactis subsp. lactis JCM 5805 on mucosal and systemic immune parameters, and antiviral reactions to influenza virus in healthy adults; a randomized controlled double-blind study (Journal of Functional FoodsVolume 35, August 2017, Pages 513-521) ScienceDirect
*10:乳酸菌ヘルベヨーグルト ドリンクタイプ(雪印メグミルク)雪印メグミルク株式会社
*11:内臓脂肪を減らすのを助ける(恵)雪印メグミルク株式会社
*12:お米由来の乳酸菌 K-1 肌の向上(お米由来の植物性乳酸菌研究所)亀田製菓
*13:Enterococcus faecalis YM0831 suppresses sucrose-induced hyperglycemia in a silkworm model and in humans (Commun Biol. 2019 May 2;2:157. doi: 10.1038/s42003-019-0407-5. eCollection 2019.) National Center for Biotechnology Information
*14:乳酸菌の分類と性質 あいち産業科学技術総合センター