動物性タンパク質の摂りすぎはなぜダメなのか

近年タンパク質の摂取と病気の関係が明らかになりはじめ、過剰摂取がオートファジーの機動に影響を及ぼすこともわかってきました。
オートファジーとは細胞に栄養が供給されなくなったときに、細胞内の不要になったものを分解して再利用し、生き延びる働きのことをいいます。オートファジーには病気を予防したり、体を健康な状態に戻す力もあることがわかり、近年研究が進んでいます。意図的にオートファジーを起動する方法は、断食以外に血糖値の上昇を抑えることが有効であることがわかっています。

さらにタンパク質の摂りすぎも、オートファジーを抑制するということが明らかになってきました。タンパク質は体を作る基礎になる栄養素なので、タンパク質を制限することは体に良くないと思われがちですが、実は過剰摂取は糖質と同じような怖さがあるのです。

プロテイン飲料やプロテインバーは味の改良が進んで美味しくなり、運動やダイエットで利用する人も増えていています。それだけにタンパク質の過剰摂取が問題になる可能性があると思います。タンパク質を過剰摂取すると、どんなことが起こるかを知ることには、リスクを回避するためにも必要ですね。

この記事は下記の書籍を元に、タンパク質の過剰摂取とオートファジーに関連する箇所をピックアップしてまとめた内容です。

『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』(ジェームズ・W・クレメント著、クリスティン・ロバーグ著、児島 修翻訳、日経BP出版)

タンパク質は体を作る重要な材料

タンパク質は私たちの体を作るのに必要な栄養素です。人の体は約60%の水、ついで約16%のタンパク質、そしてほぼ同じくらいの約15%の脂肪で構成されています。
体を構成している物質は古くなると入れ替えが必要で、私たちは食事を摂ることで体を作る材料を取り込んでいます。

タンパク質は水の次に体内に多く存在し、欠かせないものなのに過剰摂取が問題になるといいます。体を構成する栄養素の中で、最も多く必要とされるタンパク質であるのに、過剰摂取することがなぜ好ましくないかについて、詳しく見ていきましょう。

タンパク質不足でも生き延びられるよう進化

話は原始時代にまで遡ります。狩猟で生活をしていた時代は、食べ物が全く手に入らないことがよくありました。氷河期の時代なら、尚更のことでしょう。今私たちが地球上に存在しているということは、狩猟採集時代に私たちの祖先が生き延びたからです。

細胞は進化の過程で、飢餓状態をうまく乗り越える方法を手に入れました。近年研究が活発に行われているオートファジーが、飢餓状態に置かれた時に細胞がしばらくの間生き延びる仕組みです。人間だけではなく、細胞を持つ生き物がみんな持っている機能と考えられています。

食べ物が手に入らないと、体が危険を感じてオートファジーのスイッチが入り、細胞内に排出されずに残っているタンパク質や古くなった細胞小器官などを分解し、分解物を再利用しはじめます。

厳しい自然の中でそのような機能を獲得したのは、今から数百万年前のことです。現代は原始時代に比べると、格段に食料を手に入れることが容易になりました。でもそれは進化のスケールで見ると、ごく最近のことです。私たちが持っているゲノムは、原始時代のヒトが持っていたものとほとんど変わっていないことがわかっています。

つまり私たちは飢餓に対して耐性はあっても、食べ過ぎに対しては耐性がないのです。そのため、食べすぎるとそれを消化しようと臓器が一生懸命に働き、疲弊して様々な問題が生じます。

タンパク質を摂取した時に体内で起こること

タンパク質は糖質と同じくらいインスリンの分泌を促すということは、意外と知られていません。タンパク質は体内でアミノ酸に分解されますが、インスリンはアミノ酸を筋肉などの組織に運ぶ役割をします。

さらに肉類や乳製品に多く含まれるロイシンやイソロイシンなどのアミノ酸は、他のアミノ酸と違いインスリンの分泌を強く促し、さらにグルカゴンの分泌も抑制します。グルカゴンとはインスリンと逆の作用があり、血糖値を上げるホルモンです。

タンパク質を過剰摂取すると、糖質を過剰摂取した時のようにインスリンの分泌が増え、その結果肥満やインスリン抵抗性という、インスリンが分泌されているにもかかわらず、インスリンが十分に作用しない状態に陥るリスクが高まります。

インスリン抵抗性があると、筋肉や脂肪組織の糖の取り込み能が低下し、肝臓では糖新生※が抑えられなくなります。その結果、血糖値が下がりにくくなるためインスリン分泌が止まらなくなります。この状態が続くと、すい臓のインスリン分泌機能が低下して血糖値が高いままになりⅡ型糖尿病を引き起こします。*1

※糖新生とは肝臓のグリコーゲンを使い果たした後に、代謝によってグルコース(糖)を産生することをいいます。*2

成人は牛乳を控えめに

牛乳は体に良いという認識の人が多いかもしれません。成長期の子どもにとっては確かにタンパク質や脂質が摂取できる食品なので体に良いといえます。しかし成長期を過ぎた大人にとっては、オートファジーを抑制する作用があるため、『SWITCH』の著者は成人が牛乳を飲むことは控えるべきと主張しています。

牛乳といえばホエイプロテインカゼインプロテイン。筋肉を増やしたい人が摂取するプロテインに含まれているのが牛乳に含まれるこれら2種類のプロテインです。

ホエイプロテインを摂るとインスリン値が上昇します。長期に渡りホエイプロテインを過剰に摂取すると、インスリン抵抗性により血糖値が下がりにくくなります。この状態が続くとインスリンの分泌機能が低下してⅡ型糖尿病を招く危険性が高まります。

カゼインプロテインを摂るとIGF-1(インシュリン様成長因子-1)が分泌されます。IGF-1はインスリンに似た構造を持ちますが、細胞の増殖や分化を促進する働きをします。この働きはオートファジーとは反対の作用であるため、IGF-1が分泌されるとオートファジーは抑制されます。成長期にある子どもにとっては好都合ですが、成長期を過ぎた大人が過剰に摂取すると、体の浄化作用であるオートファジーが抑制されるので、がん細胞の増殖が進む危険性が高まります。

分岐鎖アミノ酸の過剰摂取に注意

日常的にスポーツや筋肉増強を行っている人にはよく知られている分岐鎖アミノ酸は、必須アミノ酸であり、スポーツをしていなくても摂取することが必要なアミノ酸です。分岐鎖アミノ酸は構造が枝分かれしているのでBCAA(Branched Chain Amino Acid)と呼ばれ、バリン、ロイシン、イソロイシンの3種のアミノ酸がBCAAになります。

BCAAがスポーツをしている人に好んで摂取される理由は、BCAAがエネルギー源として使われるからです。通常は糖質がエネルギーとして使われ、糖質がなくなってくると脂肪や血液中のBCAAがエネルギー源となります。しかしそれらがなくなってしまうと、筋肉中のBCAAをエネルギー源として使いはじめます。その状態が続くと筋肉が減り筋力低下につながるため、BCAAを含むプロテインを利用しています。*3

ホエイ(乳清)由来のBCAAを含むプロテインは手に入りやすく、飲みやすい製品も多いので常用する人が多く、過剰摂取している人も多いのだそうです。ホエイは乳製品に含まれるものなので、BCAAを過剰に摂ることでオートファジーを抑制することになります。

最近の研究では、BCAAの過剰摂取がホルモンの受容体にも影響を与えることが明らかになっていて、2019年のネイチャー誌に乳がん治療中の女性がロイシンを多く含む食品を摂ると、抗がん剤の効き目が弱まるという報告が掲載されました。

ロイシンは細胞分裂と増殖を促す作用がありますが、がん細胞も同じように増殖します。BCAAの過剰摂取をやめることで、細胞の増殖が抑えられます。
もちろんBCAAは体に必須のアミノ酸であるため、摂取しなければなりませんが、プロテイン飲料やプロテインバーを大量に摂取しないよう注意が必要です。

タンパク質の過剰摂取が健康に及ぼす影響

タンパク質の過剰摂取はがんに限らず、健康に悪影響を及ぼします。具体的にどのような影響があるのか、一つ一つ見ていきましょう。

腎臓への負担

食事からタンパク質を摂取すると、体内の酵素によりアミノ酸に分解されます。その時に尿素やクレアチニンなどが産生されます。これらは必要のない物質なので老廃物となりますが、尿素やクレアチニンは腎臓からしか排出されません。そのためタンパク質を過剰に摂取すると、腎臓に負担がかかってしまいます。
腎臓機能が弱っている人は、タンパク質を制限した食事をしなければならないのはそのためです。

体重の増加

タンパク質を過剰に摂っても、それが全て筋肉などの合成に使われるわけではなく、余ったタンパク質は体内に貯蔵されることなくアミノ酸は尿として排泄され、タンパク質は脂肪に変換されて体内に蓄えられます。

体重の増加というのは運動によって筋肉が増えた分だけではなく、余ったタンパク質が脂肪に変わり、皮下や内臓に蓄えられるためということになります。

病気のリスク増大

タンパク質を摂りすぎても、排泄されるだけなのでそれほど健康を害することはないと思われています。しかし近年、タンパク質の多い食事と病気の関係が、研究・調査により明らかになってきました。

心臓病

高タンパク質の食材には飽和脂肪酸コレステロールが多く含まれます。飽和脂肪酸とコレステロールは心血管疾患の発症リスクを高めることがわかっています。近年の研究で、赤身肉を長期間摂取し続けることで、トリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)という心臓病に関係している物質が腸内で増えることが示されました。

がん

高タンパク質の過剰摂取はがんの発症リスクも高めます。2014年に約20年間成人を追跡調査した結果が発表されました。その内容は、中年期に動物性タンパク質を多く含む食事を摂った人は、低タンパク質の食事を摂った人に比べてがんで死亡する確率が4倍高いというものでした。その原因はタンパク質を摂取することで「成人は牛乳を控えめに」で登場したIGF-1が増えるためです。IGF-1はオートファジーを抑制するのでした。

糖尿病

糖質の摂りすぎでⅡ型糖尿病のリスクが高くなることは知られていますが、タンパク質もインスリンの分泌を促進するので、糖質を取りすぎた時と同様に糖尿病のリスクが高まります。
糖尿病と食事に関する様々な調査が行われています。2017年フィンランドの研究では、42歳から60歳の2300人以上の中年男性の食事を分析し追跡調査をしました。調査開始時点で糖尿病患者が0人だったところ、19年後には432人に増えていました。動物性タンパク質の摂取量が多く、植物性タンパク質の摂取量が少ない人は、糖尿病になるリスクが35%高いことがわかりました。

タンパク質は適量摂取がベスト

必須の栄養素だからといって、多めに摂ることが良いわけではないことがわかりました。タンパク質の過剰摂取で体内の脂肪が増えること、インスリン分泌が促進されることもわかりました。運動やダイエットにプロテインを利用する人は、過剰摂取にならないよう注意が必要です。

オートファジーやタンパク質の過剰摂取についての詳細は、下記書籍をご参照ください。
『SWITCH(スイッチ)オートファジーで手に入れる究極の健康長寿』(ジェームズ・W・クレメント著、クリスティン・ロバーグ著、児島 修翻訳、日経BP出版)

(参考文献)
*1: インスリン抵抗性(e-ヘルスネット)厚生労働省
*2: E 糖の貯蔵と糖新生 信州大学医学部
*3: 運動・スポーツ時には重要な栄養素!BCAAとは?(オオツカ・プラスワン)大塚製薬株式会社

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