健康に良い食事のシンプルな見極め方

健康のために、食生活を改善すると良いことは多くの人が知っているし、実践したい人またはすでに実践している人は多いと思います。テレビや書籍、インターネットは健康に良いとされる栄養や食品に関する情報で溢れかえっています。実はこれらの情報の多くはエビデンス(科学的根拠)に乏しいものであると指摘するのは『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』の著者である津川友介氏。

食生活を改善するためには、できるだけ単純化した知識を持つことも重要と津川友介氏は主張しています。本書では、健康に良いかどうかで食品を5つのグループに分けて、エビデンスを示しながらわかりやすく説いています。

毎日食べるものを選ぶことは、とても小さな選択です。その小さな選択の積み重ねが自分と家族の体と健康を作り、将来にも影響するということをしっかり自覚することが必要だと、この本を読んで思いました。何が体に良いかを自分で正しく判断するには、できるだけシンプルな法則を自分の中に持つことが必要で、その点においてこの本はとても参考になります。

この記事は下記の書籍の中から、著者独自の視点でまとめた食品5つのグループを中心に、要点を整理したものです。

『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』UCLA助教授/医師 津川友介著、書東洋経済新報社 (2018/4/13)

エビデンスに基づいた「健康に良い食事」とは

スマートフォンが普及し、誰もが気軽にインターネットで検索して知りたい情報を得ることができるようになりました。健康に良い食事への関心は高く、テレビや書籍、インターネットでは情報が溢れています。しかし残念ながら、これらの情報の中にはエビデンスのないものも多く存在すると、著者は注意を促しています。

簡単に情報収集できる時代になったからこそ、自分で情報の信憑性を判断する力が必要だと訴えています。本書では、何が正しい情報かを読者自身が判断できるようになるために、さまざまな手法を提示しています。

エビデンスがあるかどうかを見極めるには

医学研究は次のように大きく3つに分けられます。ある食品が健康や美容に良いということを知ったときには、どのようなデータが元になっているかまでを確認することで、根拠のあるものかどうかが判断できます。

  • ランダム化比較試験

観察研究よりもエビデンスレベルが高いとされています。ランダムに二つのグループに分けて、一方に健康に良いと思われる食品を摂取してもらい、もう片方に摂取しないでもらう方法です。二つのグループを比較して食品の効果を評価する試験です。

  • 観察研究

ある集団の食事に関するデータを集め、特定の食品をたくさん摂取しているグループとあまり摂取していないグループを見つけて双方を長期間にわたって分析します。その間各グループで病気になっていたり死亡していたりする割合を評価する研究です。

  • メタアナリシス

異なる場所などで行われた複数の研究結果を取りまとめた研究手法で、ランダム化比較試験を取りまとめたものが最も強いエビデンスを持つといわれています。

健康に良いかは単純化して考えると良い

日々忙しい暮らしの中で、どれが体に良いものかというのを、エビデンスから一つ一つ確かめることはほぼ不可能なので、著者は食品を大きく5つのグループに分類し、単純化することでわかりやすくしています。

グループ1

健康に良いことが、信頼できる複数の研究結果で示されている食品のグループです。
魚・野菜と果物、茶色い炭水化物※、オリーブオイル、ナッツ類などがこのグループに入ります。

※茶色い炭水化物とは、色が茶色という意味ではなく、精製されていない炭水化物という意味です。

グループ2

少数の研究で、健康に良い可能性が示唆されている食品グループです。もしかしたら健康に良いかもしれないという食品がこのグループに入ります。例えばダークチョコレート、コーヒー、納豆、ヨーグルト、酢、豆乳、お茶などです。

グループ3

健康に良いかどうか、何も報告されていない食品がこのグループに入ります。ほとんどの食品がこのグループになります。

グループ4

少数の研究で健康に悪い可能性が示唆されている食品が、このグループに入ります。マヨネーズ、マーガリンなどです。

グループ5

複数の信頼できる研究で、健康に悪いことが報告されている食品がこのグループに入ります。赤い肉(牛肉・豚肉)、加工肉、白い炭水化物※、バター(飽和脂肪酸を含む食品)などです。
※白い炭水化物とは、精製された炭水化物のことをいいます。

栄養素ではなく食品を見る

食べるものを考えるとき、体に良い栄養素(または成分)ではなく食品で考えるべきと著者はいいます。その理由は食品の栄養素にばかり気を取られていると、本当に栄養のある食品を食べなくなってしまうからです。
一つの栄養素にこだわることで、好ましくない結果を招く具体例を次に紹介します。

果物は果糖を多く含むから体に良くない?

例えば果物は果糖を多く含みます。果糖は血糖値を上げる作用があるので、健康に良いとはいえません。しかし果物そのものは健康に良いというエビデンスは十分に存在しています。
これはどういうことかというと、果物の中に含まれている果糖だけを抽出して摂取すると、血糖値は急上昇します。しかし果物を丸ごと食べると、それほど血糖値は上がりません。つまり栄養素一つだけに注目するのではなく、摂取する食品に含まれる栄養全体から、体にどのような作用を及ぼすかを見るべきなのです。

果物を丸ごと食べると、果物に豊富に含まれる食物繊維も一緒に摂取することになります。果糖だけを摂取するよりも、食物繊維を一緒に摂取すると、果糖の吸収が妨げられるため、血糖値の上昇が抑えられるのです。

βカロテンは体に良い?悪い?

1990年代にβカロテンが体に良いという情報が広まり、βカロテン入りの清涼飲料水が流行りました。2021年の今、βカロテン入りを訴求する飲料はほとんど見なくなりました。βカロテンを含む飲料が流行ったのは、緑黄色野菜や果物を多く食べている人に、胃がんや肺がんが少ないという報告がされ、βカロテンでそれらのがんが予防できるのかもしれないと考えられたからです。
しかし研究の結果、予想とは逆に、がんのリスクを上昇させることが判明しました。それだけではなく、死亡率や心筋梗塞のリスクも高めるとの報告がされたため、βカロテン含有を謳った飲料はなくなりました。

しかし緑黄色野菜そのものに関しては、食べること病気のリスクを下げるといわれています。このことから食品から一つの栄養素だけに注目したり、一つの栄養素だけを取り出して摂取すると良いという考え方には、危険が潜んでいることがわかります。

健康に良い食べ物のエビデンス

グループ1に属する6つの食品(オリーブ油、ナッツ類、魚、野菜、果物、茶色い炭水化物)には健康に良いといえるエビデンスが存在します。グループ1に属する食品のうち、オリーブオイル、ナッツ類、魚を多く使うのが地中海食です。日本食は健康に良いといわれていますが、実はエビデンスは弱いのです。魚や野菜を多く使う日本食ですが、塩分と白い炭水化物が多いためです。

地中海食が健康に良いといえるエビデンスは、2013年に大規模な研究(ランダム化比較試験)が行われ、世界で最も権威のある医学雑誌の一つ『ニューイングランドジャーナル』に掲載されました。

地中海食の大規模研究

約7500名をランダムに3つのグループに分け、それぞれのグループに次のような食事内容の指導を行いました。いずれのグループに対しても総摂取カロリーや運動に関しては特に制限をしませんでした。

  1. 1週間ごとに約1リットルのエクストラバージンオイルを支給し、地中海食を食べるように指導。
  2. 1日あたり30gのミックスナッツ(クルミ15g、ヘーゼルナッツ7.5g、アーモンド7.5g)を支給し、地中海食を食べるように指導。
  3. 地中海食の代わりに、低脂肪食を指導。このグループを他2つのグループの対照群としました。

3つのグループを約5年間追跡し、動脈硬化が原因で心筋梗塞や脳卒中がなかったか、またはそれらによる死亡があったかを調べました。
結果は1、2の地中海食グループは3の対照群と比べて脳卒中、心筋梗塞、それらによって死亡する確率が29%低くなりました。(1のオリーブオイルのグループでは30%、2のナッツ類のグループでは28%のリスク減少でした。)

以上のようなエビデンスが存在し、健康に良いとされるグループ1の食品を使った料理を心がけると同時に、グループ4と5の食品を避けることで、健康に良い食事を摂ることが可能です。

誤解の多い食品 本当はどうなの?

テレビ、本や雑誌、インターネットなどで健康に良いとか悪いとか言われていて、結局よくわからない食品がたくさんあると思います。そのような食品について、著者が本の中で考えを述べていますので、紹介したいと思います。

フルーツジュースは健康に悪い?

果物は果糖を含むので、毎日食べない方が良いという人がいますが、実は果物を食べても血糖値は上がりにくいのです。しかしフルーツジュースは別で、飲むと血糖値が急上昇します。なぜこのようなことが起きるのかというと、果物には糖質の吸収を抑える働きがある食物繊維が含まれているからです。フルーツジュースは加工の過程で食物繊維が取り除かれるために、果糖がそのまま吸収されてしまうことが血糖値を急上昇させる原因になっています。糖尿病の発症率は、果物をほどほどに食べている人の方が、食べない人よりも低いといわれています。

魚は有毒物質が含まれるといわれるけど、たくさん食べても大丈夫?

魚と健康についてメタアナリシスが行われており、魚の摂取量が多い人ほど死亡するリスクが低いという結果が得られています。
同じくメタアナリシスにより、1日あたり85〜170gの魚を摂取すると、魚をほとんど食べない人に比べて、心筋梗塞により死亡するリスクが36%低くなることがわかりました。魚にはオメガ3脂肪酸が心筋梗塞などの動脈硬化を原因とする病気を予防することが明らかになっています。

一方で魚には水銀、 PCB(ポリ塩化ビフェニル)、ダイオキシンなどの有害物質が含まれているともいわれています。そしてそれらが子どもや胎児に与える影響については、まだよくわかっていません。では魚は食べない方が良いのかというと、著者はそれは得策ではないと考えています。2006年に行われた研究で、仮に10万人の人が70年間にわたり週2回、サケを食べ続けたとすると、PCBによって生じるがんで24名の命が奪われる一方で、心臓病のリスクが下げられて7000人の命が助かると推定されているそうです。PCBは魚だけに含まれているのではなく、肉、牛乳、卵などにも含まれているということも、魚を控える理由にはならないとの考えの根拠になっているようです。

乳製品は摂らない方が良いって本当?

牛乳やヨーグルトなどの乳製品は、健康に良いといわれる一方で、カロリーが高いこと、脂肪分が多いことなどを理由に、健康に良くないということもいわれています。このような正反対の考えについて、どちらを信じるべきでしょうか。

この点について、過去の研究から乳製品の摂取量が1日あたり400g増えるごとに、前立腺がんのリスクが7%上昇することがわかっています。卵巣がんに関しては、牛乳を1日1杯多く飲むごとに、リスクが13%上昇する可能性が示唆されています。

以上から、大人は乳製品を摂りすぎないよう、気をつける必要がありそうです。

日本人は気をつけたい白米の食べすぎ

日本人の主食は白米なので、毎食白米を食べても何ら不思議に思うことはないでしょう。それだけに「食べすぎ」とは、どれくらいが食べすぎになるのかの基準が曖昧だと思います。日本人のデータを用いた研究によると、1日2杯(1杯160g)以下の白米を食べるグループと比べて1日2〜3杯食べるグループでは、5年以内に糖尿病になるリスクが24%高いことが明らかになりました。1日に2杯くらいが糖尿病の上がり始める境界と考えられます。
家族に糖尿病の人がいる場合には、できるだけ白米を減らした方が良いともいわれています。どうしても白米が食べたい場合には、毎日1時間以上の激しい運動が必要なのだそうです。

毎日の小さな選択が健康を作る

「日本食を食べていたら大丈夫」というわけではないこと、白米を1日2杯以上食べない方が良いということに対して、びっくりした人が多いかもしれません。毎日のことなので、あまり無理を続けることはリバウンドやストレスのことを考えると、賢明とはいえないでしょう。

この記事で紹介した、健康に良いことがわかっている食品をできるだけ取り入れながら、それ以外の食品はほどほどを心がけることが肝心です。健康は食べ物だけではなく、運動や睡眠、精神的なことも関わってくるので、バランスを取りながらできることを少しずつ重ねていくのが良いでしょう。

この記事は要点を整理したものなので、より詳しい内容については実際に本を手に取ってご覧ください。

『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』UCLA助教授/医師 津川友介著、書東洋経済新報社 (2018/4/13)

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