子ども、妊婦、高齢者、病気の人のための究極の食事
体に良い食事と紹介されるとき、対象を特定していない場合は健康な成人を対象としています。子ども、妊婦、高齢者、病気の人にとっての良い食事となると、健康な成人と同じというわけにはいきません。そこでこれらの人には、どのような食事が「究極の食事」といえるのかについて紹介します。
今回の記事は、下記書籍を参考にして書いています。
『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』UCLA助教授/医師 津川友介著、書東洋経済新報社 (2018/4/13)
現在健康な人でも、知っておくと役に立つ情報がたくさんありました。健康診断で肝臓や腎臓機能が落ちていると知ったときや、家族の体調管理・病気の悪化防止にも生かせると思います。
子どものための究極の食事とは
大人とは違い、子どもは活動量が多いことや成長期にあることから、カロリーは多めにとっても大丈夫です。食べすぎは体に良くありませんが、無理のない程度に好きなものを食べることは、大人ほど神経質にならなくてもよさそうです。
甘いものを摂りすぎなければカロリー摂取多めでもOK
その際に気をつけなければならないことは、甘いお菓子やジュースを摂りすぎないことです。カロリーを多めにとっても良いとはいえ、お菓子など糖分がメインのカロリー摂取は控えなければなりません。子どもの食事については、大人がしっかり管理することが大切です。
2011年に行われた研究によると、子どもの肥満は大人になってから糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳卒中になるリスクが高くなり、若年死との関係が示唆されています。子ども時代の食習慣は、大人になっても影響するということを忘れないことです。
清涼飲料水など、糖分を多く含む飲み物が冷蔵庫にあるとつい手が伸びてしまうことと飲み物だと簡単に糖分を摂取できてしまうので、糖分の多い飲み物を常備しないようにすると糖分の摂りすぎを防ぐことができます。
食欲にしたがって、食事量が増えるのは問題ありませんが、加工食品に偏らないよう、魚や鶏肉などの良質なタンパク質、野菜や果物も加工されていないものを食べさせるようにします。
次の表は、年齢別子どもの食事量の目安を示したものです。
妊婦のための究極の食事とは
妊婦になると、つわりなどで食欲がなくなる時期がありますが、その時期以外は母体と赤ちゃんの健康のために、究極の食事が必要です。
妊婦の食事に関する情報の中にも、科学的根拠のあるものとないものが存在します。例えば体を冷やす食べ物は食べてはいけない、体を温める食べ物を食べるのが良いというのは都市伝説であり、科学的根拠はないといわれています。
野菜を多く摂り葉酸を摂取
妊婦は野菜と果物をたくさん食べるのが良いといわれています。野菜なら1日におよそ385〜400g程度です。特に妊娠時期は、葉酸の摂取が必要になります。葉酸はビタミンB群の一種で、鶏レバーやほうれん草、モロヘイヤ、枝豆、干し椎茸などに多く含まれています。*1
葉酸は妊娠初期に十分量摂取をすることで、胎児の神経管閉塞障害のリスクを下げることがわかっています。そのため、葉酸が不足しないようサプリメントでの補充も推奨されています。
生ものは食べないように
その他、科学的根拠があるものが本書籍に掲載されていたので、紹介します。
まず1つめは、生ものは食べないようにすることです。お刺身や火が十分通っていない肉、生卵や半熟卵、ナチュラルチーズなどは、控える方がよいでそうです。ナチュラルチーズは火を通さないため、リステリア菌の感染リスクがあるからです。チーズが食べたい時には、製造工程で加熱を行うプロセスチーズを選ぶようにしましょう。
野菜も加熱する方が望ましいといわれています。生野菜には、トキソプラズマという寄生性原生生物(原虫)がついていることがあるので、水でよく洗うか、加熱調理が推奨されています。妊娠中の女性が感染することにより起こる先天性トキソプラズマ症は、死産や自然流産、生まれてきた子どもには精神遅滞、視力障害、脳性麻痺など、重篤な症状が出ることがあります。*2
魚の摂取は偏りなく
魚の脂を摂取することで、子どものぜんそくや糖尿病のリスクが下がるともいわれていて、妊婦が魚を食べることは推奨されています。しかし魚の種類によっては水銀が含まれるため、水銀の少ない魚を食し、決まった魚の種類に偏ることなく食べるようにしましょう。
水銀の量がわかっている魚を次の表にまとめているので、参考にしてください。
水銀の量が多いことがわかっている魚 | 本マグロ、メカジキ、キンメダイ、メバチマグロ、バンドウイルカなど |
水銀の量が中糖度の魚 | キダイ、マカジキ、ユメカサゴ、ミナミマグロ、ヨシキリザメなど |
水銀の量が少ないことがわかっている魚 | キハダ、ツナ缶、サケ、アジ、サバ、イワシ、サンマ、鯛、ブリ、カツオなど |
水銀の量が多い魚は、食べてはいけないのではなく、食べる量に注意が必要という意味です。目安としては、水銀の量が多いといわれる魚の摂取量は、1週間に約40gまでといわれています。
高齢者のための究極の食事とは
高齢者の食事については、しっかりとしたエビデンスはありません。しかし元気で食欲があるうちは、若い頃と同じように白い炭水化物※1や赤身の肉の摂取をほどほどに控え、糖尿病にならないために糖質の摂取を抑えるようにすることが推奨されています。
※1:白い炭水化物とは、精製された炭水化物(白米、うどん、ラーメン、小麦粉を使った食品など)のことをいいます。
食べたいものを食べるのが良いという考え方も
近年の研究結果から、食欲が落ちてきた時には、そのような食事制限はゆるめた方が良いと考えられています。高齢になっても糖尿病や腎臓病がなく健康であるなら、これまで通りの食生活で問題ないとされています。逆に食が細くなるようであれば、低栄養になるデメリットとのバランスを考えて、カロリー摂取につながるのであれば炭水化物や赤身の肉でも食べるのが良いという考え方も存在します。
高齢の女性は骨粗鬆症の人が多く、転倒による骨折をきっかけに寝たきりになるケースが多く、そうなると体力が低下して肺炎や認知症など、命に関わる重篤な状態になることがあります。転倒を防ぐためにも筋肉量の維持が大事と考えると、余り厳しい食事制限を行うよりも、食べられるもの、食べたいものを食べる方が良いと考えられています。
病気の人ための究極の食事とは
食事の制限が必要な病気の人の究極の食事は、一般にいわれる大人向けの健康に良い食事とは異なります。よくある疾患の中から、食事に気をつけなければならない3つの病気を取り上げます。
糖尿病
糖尿病の人が最も気をつけなければならないことは、血糖値のコントロールです。血糖値を上昇させやすい食品に注意が必要です。血糖値を急激に上昇させる白い炭水化物や糖分は控えなければなりません。
ここで問題になるのは、白い炭水化物や糖分を控えるとお腹が空くので、代わりに何を食べるかです。血糖値を上げない食品だけで考えれば、赤身の肉や脂質も候補になりますが、今度は心筋梗塞や大腸がんなどのリスクが高まります。
健康を考えると、食事内容は野菜や果物、魚、茶色い炭水化物※2、オリーブオイルやナッツ類が良いといわれています。
※2:茶色い炭水化物とは、精製されていない炭水化物のことで、雑穀類や全粒粉などです。
果物は果糖を含みますが、食物繊維も含むため血糖値の急激な上昇はありません。茶色い炭水化物も同様に食物繊維を多く含むため、炭水化物でも血糖値が急激に上昇することはありません。
高血圧
高血圧の人は塩分の摂取量を控えなければなりません。日本食は味噌汁や漬物、焼き魚など、塩分が多い食品が多いので、気づかぬうちに塩分を摂取していることがあります。家で料理をする際には塩を控えめにして、代わりにダシを強めにしたり、レモンやシソなど香りの強いものや唐辛子などの香辛料を適量加えたりすることで、塩気が少なくても美味しく食べることができます。また薄味に慣れてしまうと、味覚が繊細になり素材の味を楽しむこともできます。
外食が多い人は、どうしても塩分摂取が多くなりがちなので、外食の時には薄味のメニューを選ぶようにしましょう。
腎臓病
腎臓病になると体内の老廃物を尿として排出できなくなるため、人工透析を通常週3回、1回4〜5時間かけて、血液をきれいにしなければなりません。
腎臓のこのような機能が失われるために、カリウムの摂取を制限しなければなりません。健康であれば、カリウムは過剰なナトリウム(塩分)を腎臓で尿として排出させ、血圧の上昇を抑える働きがあります。しかし腎臓が機能しなくなると、カリウムを摂取すると腎臓から排出されないために血液中のカリウム濃度が高くなり、心臓のリズムを乱し心室細動を引き起こします。心室細動とは不整脈の中でも命に関わる重篤なものです。
カリウムを多く含む食品は野菜や果物になります。高血圧や糖尿病や健康な人でも野菜や果物は積極的に食べるべき食品でした。しかし腎臓病になると、それらを食べることができなくなります。
カリウムだけではなく、塩分の摂取も控えなくてはなりません。摂取塩分が多い場合には、1回の透析では取り除けないことがあるためです。
タンパク質も体に悪影響を及ぼします。腎臓病の人がタンパク質を摂りすぎると、体内でタンパク質が代謝された後に生じる尿素窒素(BUN)が腎臓から排出できなくなり、尿毒症になります。*3
また透析をしていても、ミネラルの1種であるリンは取り除けないため、リンを含む食品も控えなければなりません。リンは保存料に含まれているので、加工食品や炭酸飲料など、保存料を多く含む食品はできるだけ摂取しないようにする必要があります。
このように腎臓病になると、食べられるものがかなり制限されてしまいます。注意すべき点として、糖尿病や高血圧が進むと、腎臓が悪くなってしまうことがあります。そのため病気で食事療法が必要になった時には、体に負担をかけない食事を心がけて、病気の進行を抑えることがとても重要です。
「バランスよくほどほどに」を心がける
毎日の食べるもので健康が作られます。食生活が乱れていると、内臓に負担がかかり将来病気になるリスクが高まります。糖分、塩分の摂りすぎに気をつけて、食べすぎないよう、ほどほどに食べるのが健康の秘訣です。
お酒の飲み過ぎや、甘いもの・塩辛いものの食べすぎだけが悪いわけではなく、体に良いとされている栄養素や食品も、過剰摂取をすることで病気になることがあります。いろんな栄養素をバランスよく、食べることが大切です。
この記事は要点を整理したものなので、より詳しい内容については実際に本を手に取ってご覧ください。
『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』UCLA助教授/医師 津川友介著、書東洋経済新報社 (2018/4/13)
(参考文献)
*1: 葉酸を多く含む食材リスト(エレビット 未来の赤ちゃんにいまからできるプレゼント)バイエル薬品株式会社
*2: トキソプラズマ症とは(NIID国立感染症研究所)
*3: 腎臓病について(全腎協)一般社団法人 全国腎臓病協議会